追悼録 ♯3 ~さみしいと言った人~

結局亡くなられるまでに、片手で数えられるくらいしか
会うことができなかった。

どんな人生を送ってきたんだろう。何を望んでいたんだろう。
何が好きで何が嫌いだったんだろう。
いまでもわからないことだらけだ。

初めて会ったのは、入院されている病院の相談室。ある日救急搬送され、そのままどんどん認知症が進んでしまった。家族もなく、唯一関わってくれたご兄弟も高齢で、入院費の支払いもできず転院先を見つけられず、病院のソーシャルワーカーさんも、地域包括支援センターの方も頭を抱えていたところ、私が関わらせていただくことになった。

なにかを必死に訴えかける目。でも会話はどうにも脈絡を持たなかった。
裁判所に後見開始申し立てを行うことになった。

コロナ禍で入院中は面会禁止。その後にゆっくり話せたのは、病院を退院して施設に移動するときだった。

「今日は調子がいい」とおっしゃって少し会話ができた。
「さみしい」「この先どうなるのか」と切実に訴えられる。
「今日は病院を退院して施設に引っ越しです。これからはご兄弟も私も会いに行けるし、病院よりもゆっくりと生活ができます。何も心配ないですよ。」そう伝えるとすこしほっとした顔をされた。

これが唯一の会話らしい会話。
次に施設を訪ねてお話してもやはり脈絡はなかったり、体調が悪かったり。施設に入居されてから旅立たれるまでは一か月もなかった。

一人見送るたびに、もっと他にできることはなかったか考える。
あのとき少しでもほっとしてくださったのであれば、それが私にとっての救い。
でも、本当はもっと前に出会いたかったな。

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にしざわゆみ司法書士事務所
司法書士 西沢優美
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