お引越し~40年住んだ家を引き払うということ~

「家に帰りたい。」

一年前、彼はいつもそう言っていた。急に体調がわるくなって、大事に手入れをしながら暮らしてきた家をそのままに、それこそ、着のみ着のままで離れることになってしまったのだから無理もない。

自宅での一人暮らしは無理だと周囲に判断され、彼自身の納得のないままにあれよあれよと介護施設で生活することになった。わたしが初めて彼に出会って財産管理や身の回りのいろいろなことをお手伝いするようになったのは、そんな頃である。

「家に帰りたい。」

だけど、実際家に帰るとなると様々な困難が伴うこともわかっていた。
一人暮らしで転倒してしまったら?けがをして取り返しのつかないことになったら?その不安は、彼自身も私も感じていた。

でもだからといって、その不安をなくすために、生きる希望を捨てられるだろうか?

電動車いすで自由に出かけたい。
好きなフルーツを好きな時に食べたい。
お金の出し入れをきちんと確認したい。
趣味のモノづくりを通して生活を豊かにしたい。

どれも人として当たり前の希望だ。安全か?自由か?そんな二者択一は酷すぎると思った。

「どこでどんな風に暮らすのが一番いいだろうね。自由と安全のバランス、ちょうどいいのはどこだろう?」
いろんな選択肢を吟味して、対話を重ねて一年とちょっと。いまは新しい場所で、安心して満足できる暮らしができるようになった。電動車いすで買い物に出かけ、好きな食べ物を買ってくる。不自由な身体でもすぐに手が届くように、あらゆるものを車いすにぶら下げて。ここでは、常に気にかけあえる人たちがそばにいて、もしもの時も安心だ。

ここまできて、彼はついに、これまで空き家になっていたもともとの自宅を引き払い、家財を処分する決心をした。時間はかかったけれど、この時間が必要だったんだろうなとも思う。

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すっかりきれいになった家をみて、ほっとしたような、さみしいような、次のステージに向かう希望のような、何とも言えない気持ちになった。

40年住んだ家。玄人はだしのDIYを施した部屋。手作りの机や棚。愛着を持って集めた工具。一つ一つに思い出があって思い入れがある。どんな気持ちで決心されたんだろう。次の暮らしに向けて、相当な覚悟だったはずだ。その覚悟に応えて、私はこれからも彼の人生に寄り添っていく。

「西沢さんはボクにとって親みたいなもんだ」と言ってくださっていたらしい。私が親??!驚いたけれど、確かに口うるさいことも言っちゃうもんな(笑)家族のような存在になれたことが最高にうれしい。そして改めて身が引き締まる思いだ。

いっしょにいろいろな選択肢を検討してくださった皆さん。日々生活をサポートをしてくださる皆さん。暑い中引っ越しを手伝って下さった皆さん。大量の家財を片づけてくださった皆さん。たくさんの支えがあって今がある。感謝の気持ちでいっぱいだ。

今、彼のまわりには、役割を超えて人として関わる人たちがたくさんいる。私もその一人。新しい日々も楽しみだ。

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にしざわゆみ司法書士事務所
司法書士 西沢優美
☎ 0466-29-1155
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追悼録~死んだらゼロになりたい~

初めてお会いしたときには、彼はすでに余命2か月を宣告されており、ベッドから起き上がれない状態だった。

「死ぬまで自宅で一人暮らしを続けたい」というご本人の強い意志のもと、ケアマネージャーさんをはじめ、在宅医の先生、看護師さん、薬剤師さん、ヘルパーさん、訪問入浴のスタッフさんなど、関わる皆さんがそれぞれの役割で彼の生活を支えていた。

そのとき一番困っていたのは、お金の管理や支払いをする人がいないことと、亡くなった後のことをどうしたらいいのかわからないこと。

そこで私がその役割を担わせていただくことになったのだ。「財産管理委任契約」「死後事務委任契約」という契約を結び、財産の管理と亡くなられた後の葬儀や埋葬、さまざまな手続きをお任せいただくことになった。

印象的だったのは、どんなふうに葬ってほしいか?ということを聞いた際のことだ。彼は、まっすぐに私を見て「私は死んだらゼロにしてほしいんだ」と言った。

「私が死んだら何も残さずをゼロにしてほしい。すべてなくしてほしい。」

自分の死をまっすぐ見つめてそんな風に言えるなんて、なんて強い人なんだろうと驚いたのをよく覚えている。その意思をかなえるために具体的にはどうしたらいいのか?私たちはたくさん会話を重ねていった。

その後、彼は医師の宣告した余命より半年以上ながく命をつないでくれた。
薬の影響でだんだんと眠る時間が長くなり、最期は看護師さんの到着を待つように逝った。穏やかに眠るように。

彼と関わりだしたころ、ケアマネージャーさんが「お金や死後のことに不安がなくなったから、体調がよくなったみたいです。」と言ってくださった。それが本当ならどんなにうれしいことだろう。そのときは、そう素直に喜んでいた。

けれど、いまおもえば、私は彼の強さに甘えていたのかもしれないとも思う。強い意思は決してぶれない、その意思をきちんと実現できれば安心してくださると信じていた。でも、本当にそうだったのだろうか?きっと多くの時間を一人で過ごすなかで不安もあっただろう。自分のした選択に迷うこともあったかもしれない。弱い部分を見せるのを嫌がる人ではあったけれど、もう少しそばにいて、もう少し寄り添うことができなかったか?

お見送りのたびに、なにかもっとできなかったかという葛藤が生まれる。でも、それが大切なんだとも思う。

「ゼロにしてほしい」

今、私が寄る辺とできるのは、彼のまっすぐなこの言葉だけだ。その言葉を実現するために自分の職務を全うする。ゼロになってもきっと見ていてくれると信じて。

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引き継ぎノート部活動報告「映画とおしゃべりの会」~離れた場所に暮らす親との今後について~

 

8月7日(土)の夜、引き継ぎノート部の4回目となるオンラインイベント「映画とおしゃべりの会」を開催し、参加してくださった皆様と一緒に、8名でおしゃべりしました。

引き継ぎノート部とは、親子の「引き継ぎ」について、お互いの経験や知識をシェアし、生かし合う場です。
いろんなことを、親が元気なうちに話し合っておきましょうと常々言われるけれど、じゃあどうやって話を切り出せばいい?具体的には、どうすれば、がんばりすぎずにお互いにとって後悔の少ない老後の暮らしを実現できるのか?をわいわい話せる場所です。

👇詳しくはこちら

今回のテーマ作品は、「東京タワー~オカンとボクと、時々オトン~」。言わずと知れた名作です。そのなかでも、主人公がお母さんを東京に呼び寄せるシーンを取り上げ、「離れた場所に暮らす親との今後」について、お話をしました。
・親に「あんたのとこに行こうかな」 と言われたとき、どう思う?
・逆に自分が子供に「こっちおいでよ」といわれたとき、どう思う?
・親との生活を真剣に考えなきゃいけないかなと思うタイミング、シチュエーションは?

親が遠方に住んでいる方、近居の方、同居の方、実の親のこと、義理の親のこと、親との親密さ、それぞれ違う立場で、経験をシェアしたり不安を話し合ったりしました。

両親が一人になったときには何かと心配だなぁ。
ある程度の距離感(物理的にも精神的にも)があったほうが、お互いうまくいくんじゃないか?
親を呼び寄せたいという気持ちもあるけれど、親の生活をガラッと変えてしまうと逆に良くないんじゃないか?

このテーマ、まさに自分にとっても興味ど真ん中。というのも、私の実家は奈良県。そして私は一人娘。いまは両親ともに元気ですが、将来どうするのがいいのかなとは常にかんがえています。親の方も、わたしが結婚して藤沢市に来てしまったことで、きっと不安もあるでしょう。

みなさんとお話をしながら、その時になってみないとわからないこともたくさんあるんだろうなと思いつつ、まずは、私は、どんな形であれ、自分のできる範囲で全力でサポートするし、親の希望を尊重するという自分の意思を伝えるところから始めようかなと思いました。

参加してくださった皆さんも、それぞれ、ご自身の親御さんとの将来を、うちだったらどうかな?と想像し、家族を大切に思う時間を持てたという感想をいただきました。
司法書士としても、遺言や任意後見契約といった法律的な準備が必要だと常々考えていますが、そこへ至るにもまずはここからだなぁと改めて感じました。

次回は・・・

次回の引き継ぎノート部活動は、9月25日(土)20時~22時オンライン読書会~「老後の資金がありません」垣谷美雨著~です。
この本は今秋映画化もされる話題の本です。タイトルそのままやんですが、どんなテーマを取り上げるか準備を進めていきます。

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ぜひ楽しみながら、一緒に親子の引き継ぎについて考えていきましょう。

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